高温多湿に注意

ハンマーダルシマーの保管。要点はこの一言です。
更にいえば「乾燥」「低温」といった極端な環境も避けるよう注意してください。

適度な湿度と温度管理ができていれば、ハンマーダルシマーの保管はなにも毎日ケースにしまう必要はありません。
ケースにしまい込むと気軽に弾けないし、ハンマーダルシマーに異常が発生した際にも気づかないからです。

それでは湿度、温度について一つずつ解説していきます。


湿度(特に高湿)に注意 (重要)

ハンマーダルシマーは湿度過多による不具合が非常に出やすい構造となっています。
あなたがハンマーダルシマーを購入したら、その日からダルシマーを置く部屋の湿度ができる限り40~60%になるように注意しましょう。
ハンマーダルシマーを保護してあげられるのはあなたしかいません。

※ただし、たまたま雨の日に楽器を持って外出する、1週間ツアーにでるので湿度管理ができないなど短期間の環境変化であればほとんど問題はありません。

課題は通常の自宅での保管や数ヶ月にわたる環境です。


膨張圧力

木材は湿気を吸収すると膨張しようとします。
これを膨張圧力といいます。

面積が広い表面板(サウンドボード)は膨張圧力が顕著です。
一方で表面板の四隅はフレームに固定されています。
高湿度状態が続くと膨張圧力は行き場を失い、表面板を押し上げたり陥没させたり波打たせることになります。
また、圧力が集中しやすいサウンドホール付近に亀裂を生じさせることもあります。
一度変形してしまった板はたとえその後湿度が低下しても元には戻りません。
こうなってしまうと修理は非常に困難です。
更に、楽器の日々の管理による不具合は、保証期間内であってもメーカー保証が適用されません。


高湿度の日本

日本では北海道など一部の地域を除き、梅雨入りする6月から9月ぐらいまでは非常に湿度が高くなります。
湿度70%以上の状態に3ヶ月程度も置いておくと、表面板が変形するリスクはかなり高くなります。
新しいハンマーダルシマーを購入して最初の梅雨時および2~3年のうちは特に注意が必要です。
それ以上の年月が経つとハンマーダルシマーの木材が日本の環境に慣れ安定することもありますが、気を緩めないようにしてください。
特に楽器を置いた部屋で洗濯物を部屋干しする等、明らかに湿度を上げてしまう行為は厳禁です。


湿度計

湿度の管理の第一歩は湿度計の設置です。
ハンマーダルシマーを保管する部屋に湿度計を置き、湿度をチェックしてください。
湿度計は安いものでも結構ですが、100円ショップで売られている湿度計は信頼性がイマイチです。
100円ショップの湿度計を使う場合は、2~3個買って複数の傾向で判断すると良いでしょう。


除湿機

湿度計を置いて湿度管理ができるようになったら、お部屋の容積にあった除湿機を入れるのがお薦めです。
湿度計を時々見ながら部屋の湿度が40~60%になるよう除湿機を稼働させます。

除湿機にはコンプレッサー式とゼオライト(デシカント)式、それらを併せたハイブリット式、更に狭い空間に向いたペルチェ式等があります。
保管場所の状況に合わせて選定しましょう。
また、除湿機を選ぶ際には電気代も考慮してください。
長時間使用の場合には電気代も馬鹿になりません。

マンション等密閉度が高い家屋では除湿機の効果は大いに期待できます。


除湿剤

古い日本家屋など密閉度が低いお部屋の場合や海が近く年中湿度が高い環境など、お部屋の湿度を40~60%に保つことが困難な場合もあるでしょう。
その際はハンマーダルシマー・ケースに入れて除湿剤による湿度管理をする方法もあります。

ただし、注意点があります。

一般的なソフトケースは布製のため湿気を通してしまいます。
そのため、ソフトケースに楽器入れてさらにケースごと大きなポリ袋をかぶせる、あるいは扉付きの棚やショーケースに入れるなど湿気を通さない工夫が必要です。

また、シリカゲル等の除湿剤の量はかなり大量に必要です。
除湿剤の吸湿状況をきちんと管理し、適切に交換しないと意味がありません。

手間はかかりますが、高価なハンマーダルシマーを短期間でダメにしてしまわないためにも湿度管理はしっかりしておきたいところです。

なお、島嶼部や半島先端など常に湿度が高い環境にお住まいで湿度管理の徹底に自信がない方へのアドバイスとしては、合板のハンマーダルシマーを選ぶというのがあります。
ただし、単板の楽器より合板の楽器のほうが多少湿度変化に対して強いという特性があるものの、合板だから全く変形しないということではありません。
単板のハンマーダルシマーに比べて多少は湿度に強いという程度です。

ちなみに《Songbird》の『Finch』および『Sparrow』は同社の開発した特殊な表面板が採用されており、湿度変化に強いハンマーダルシマーとなっています。
他にも『Webster』などフローティングサウンドボード構造のハンマーダルシマーは湿度に強いです。

※フローティングサウンドボードとは表面板がフレームに固着されておらず、板の膨張するスペースがある構造のサウンドボードのことです。


乾燥

北海道など梅雨がなく冬季はずっと室内に暖房が入るといった環境の方は、乾燥しすぎに注意する必要がります。
ハンマーダルシマーが湿度40%以下の環境に長時間晒され乾燥しすぎると、木材が収縮しひび割れが発生することがあります。

対策としては加湿器をお部屋に導入して湿度を40~60%になるように調整しましょう。


ハンマーダルシマーと気候

ハンマーダルシマーは基本的に大量生産される工業製品とは異なり、手作りに近い民族楽器です。
民族楽器はその生まれた国、地域の環境に合うように作られています。
大部分のハンマーダルシマーの故郷であるアメリカの生産地のほとんどは乾燥した気候です。
木材は湿度調整されていても、どうしても乾燥気味になっています。
そのため、ハンマーダルシマーを高温多湿な日本に持ってくると乾燥気味だった木材はどんどん湿気を吸い込み膨張して不具合が発生するのです。
これはすでに判っていることですので、新たにハンマーダルシマーのオーナーになった方は最初は少し神経質と思えるほどの湿度管理をすることを強くお勧めします。

ちなみにアメリカでは、ハンマーダルシマーをはじめ木製楽器の不具合の多くが乾燥しすぎによる収縮や割れです。


温度に注意

ハンマーダルシマーの保管の際は、湿度だけでなく温度にも注意が必要です。

ハンマーダルシマーが高温状態に数時間程度さらされると、木材を接着している接着剤が溶けてしまいます。
その結果変形や崩壊するというケースがあります。

夏場に車のトランクへ積んで長時間移動するのは要注意。
トランクではなく、エアコンが効く車内に置きましょう。
また、ドライブインに立ち寄った際、めんどうでも車を降りるときにはハンマーダルシマーを連れて行きましょう。
幼児を車に置き去りにしてはいけないのと同じです。
エンジンを切った車内はすぐに高温となります。

室内ではストーブなど暖房器具の近くに置かない、エアコンの風が直接あたらないようにするなど注意が必要です。

では逆に冬場室温が低下する場合はどうなるでしょうか。
金属でできている弦が収縮し、ハンマーダルシマーにかかる圧力が強まります。
人間にとっても厳しい環境となる10℃以下にハンマーダルシマーを放置することは避けましょう。

なお、飛行機での移動の際、楽器をチェックインすれば航空機の荷物室に置かれます。
この場合かなりの低温になることが予想されます。
弦が切れるなどのトラブルも予想されますが国内の短時間移動であれば特に弦を緩めるなどの対策は不要でしょう。
飛行機での対策については「ハンマーダルシマーの運搬」でお伝えします。


最後に

ハンマーダルシマーは生き物です。
「高湿度」「乾燥」「高温」「低温」といった極端な環境を避け、人間が快適と思う環境で保管しましょう。


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