ハンマーダルシマーを弾いてみたい。


その熱意があればすぐにでも始められます。
しかし、当然のことながらハンマーダルシマーを手にいれなければなりません。


ハンマー・ダルシマーにはいろいろな種類、サイズ、メーカーがあります。
どれを買おうか迷ってしまうこともあるでしょう。
特に初めてハンマーダルシマーを買うとなると、どれが良いのか、何を基準に選べば良いのかなかなか判断が難しいでしょう。


そこで、ハンマーダルシマーを買うための選定のポイントを楽器本体、音、演奏スタイルの面からご紹介します。
また、ハンマーダルシマーの購入の際の予算やどこから買えば良いのかについてもお伝えします。



※メーカー名を《》で、商品名を『』で囲むよう統一しています。
また、人名の表記は日本語:英語で並列表記します。


(2022年1月時点最新版です。情報は随時更新していきます)





1. 楽器本体に関して

【ハンマーダルシマー】

1) 合板か単板か

ギターでは、高級品は単板(張り合わせていない無垢の木)で作られ、安価な普及品は合板で作られています。
ハンマーダルシマーにおいても同様の傾向があります。
表面板、裏板はハイエンド製品では単板を接ぎ合わせた板で作られ、入門機は合板で作られたものが多いです。


これだけの情報で単板で作られたハンマーダルシマーがいいと考えるのは早計です。
単板で作られた楽器が良いかというと必ずしもそうではないからです。


単板は湿度の変化の影響を受けやすく、膨張して変形したり、乾燥してクラック(ひび割れ)が入るなど強度的な課題を抱えています。
また、合板といってもホームセンターで売られているようなスカスカのベニヤ板で作られているわけではありません。
楽器用に厳選された密度の高い合板です。
合板で作られた楽器は強度が強く壊れにくいという特性があります。
日本の高湿度な環境や耐久性を考慮すると、合板で作られたハンマーダルシマー を選択するのも理にかなっています。


なお、高級なハンマーダルシマーでもピンブロックやブリッジにわざわざ合板を使っているケースもあります。
これは、合板は単板より強度的に優れた特性があるため、適材適所の考え方で採用されているものです。


単純に合板は安物、単板は音がいいとの判断は正しいとは言えません。
単板と合板で音色がどのように変わるかについては興味深いところです。
実際に音色を決める要素は木材の材質のみではありません。
ボディ構造、弦のタイプ・太さ・張力、ブリッジの材質、ロッドの材質等々多くの要素が絡んで決まってきます。
音色が好みかどうかは自分で聴いて判断すべきところです。
もしあなたが3万円のアコースティックギターと30万円のギターの音色の違いを聞き分けるのが難しければ、ハンマーダルシマーにおいても音色の違いを聞き分けるのは難しいです。
普段から楽器の音に慣れているなら、実際に弾き比べ、聞き比べをしてあなたの好みに合う楽器を選ぶのが良いでしょう。

【合板のハンマーダルシマー 《Dusty Strings》の『Prelude』】


2) 重量と大きさ

ハンマーダルシマーの選定に際してはその仕様をあらかじめよくチェックすることが望まれます。特に重量と大きさが自分の使い方にマッチしたものかについてはしっかりと確認してください。
特に公共交通機関での移動が中心の場合には慎重に検討する必要があります。
サイズによっては新幹線での移動に際しては荷物スペースの予約が必要になるでしょうし、車の荷室にうまく入らないこともありえます。


ハンマーダルシマーの重さと大きさは基本的には音域に依ります。
大きさに関しては、最小の『Backpacker Dulcimer』はその名の通り気軽に持ち運びができる重さと大きさです。
重量2kg程度でサイズはノートパソコン程度です。


一方で《Dusty Strings》の最高級機『D670』は約13kgあります。
ケースに入れ、スタンドも持つとなるとさらに3~4kg重くなります。
大きさは1.3m×0.6mで畳を一回り小さくした程度の大きさになり、とても気軽には持ち運びできません。


《Dusty Strings》のハンマーダルシマー(特にクロマティックシリーズ)は比重の高い材料を多く使っており重量があります。
これに対し《Master Works》の楽器は軽量化を念頭において設計されており、大きさの割に軽く感じられます。

【最大のハンマーダルシマー《Master Works》の『DulciForte』】


2. 音に関して

【ロゼッタ(サウンドホールの飾りで音には関係ありませんが
各ビルダーの思いがこもっています)】

1) 音域

ピアノの場合、88鍵7オクターブ1/4がスタンダードです。
初心者だから54鍵の楽器から始めようなどと考えることはありません。


ハンマーダルシマーはさまざまなサイズがあります。
小さなハンマーダルシマー(例えば『バックパッカー・ダルシマー』)ですと9/8コースです。
(センターブリッジ=左側のブリッジに9コース、ベースブリッジ=右側のブリッジに8コース)
音域はGを基音で2オクターブちょっとです。
これはアイリッシュで使用されるティンホイッスル(笛)とほぼ同じくらいの音域です。
他の音、例えばDを基音とすると1オクターブちょっとしかありません。


『バックパッカー・ダルシマー』ではかなり限られた音域の曲やキー(基音)でしか弾くことができません。
ハンマーダルシマーとはどんなものであるかを知るために実物を入手したいと考えている方や高価な楽器を買っても続けられるかまったく自信がない方は、価格も安いバックパッカー・ダルシマーから始めるのも一案でしょう。
軽く持ち運びに便利で、気軽に旅行に持って行ったり、お友達に披露するのも良いでしょう。
また、通常のハンマーダルシマーより1オクターブ高くチューニングしますので、ソプラノ楽器として位置づけて使うこともありかもしれません。


ある程度本気でハンマーダルシマーをやってみたいとなれば12/11コース2オクターブ半以上の楽器が必要でしょう。
(センターブリッジ=左側のブリッジに12コース、ベースブリッジ=右側のブリッジに11コース)


あとあと音域の不足がないようにということですと、16/15コース3オクターブ+αあれば十分ですが、サイズ・重量もそれなりのものになってきます。


さらに大きな19/18コース4オクターブ+αというような楽器もありますが、サイズ・重量ともかなりなものになり持ち運びはたいへんになります。


要は小・中・大・巨大(ノートパソコン~畳一畳くらいの幅があります)のサイズ=弦のコース数によって演奏可能な音域が変わってきます。
自分がやりたい音楽の音域を勘案し、他の検討要素を考えて行きましょう。



【《Lee Spears》ダイアトニック・ハンマーダルシマー 】

2) ダイアトニックかクロマチックを目指したものか

音階には大きくダイアトニック(全音階)とクロマチック(半音階)があります。
簡単に説明すると、ダイアトニックはピアノの白鍵のみを使用し、クロマチックは黒鍵も併せて使用するイメージです。


大前提として、ハンマーダルシマーはその構造からしてダイアトニックな楽器です。
ハンマーダルシマーはセンターブリッジにより一つの弦の長さが2:3に分けられることにより5度違いの音程が一つの弦の左右に作られています。
(GとD、AとEなど)
この構造からして、一般的に弾きやすいキーは限られています。
具体的にはG,D,Emあたりをキーとした音階は容易に弾けますし、A,C,Fも一応弾けます。


「一応弾ける」というのは、メロディラインは追えるが、その和音のアルペジオを弾くのは困難、オクターブ上げ下げしての展開はできないということです。


ジャズでサックスと合奏するのでキーをB♭にしてくれとか、ボーカルが歌いやすいように半音上げてくれ、または下げてくれというような融通は効かないのです。
プロの作曲家や編曲家で、このようなハンマーダルシマー の特性・制限があることをご存知ない方もいらっしゃるため、プロのハンマーダルシマーの演奏家でもレコーディング等で難儀することもあります。


また、曲によっては通常の音階にない半音が使われているケースがあります。
少しでもこういったニーズに対応するため、特定の半音が付加されたハンマーダルシマーが作られるようになりました。
追加のブリッジ(エクストラ・ブリッジ)が付加されたり、左右のブリッジの位置を変更したハンマーダルシマーがこれに当たります。
半音が付加されたハンマーダルシマーのことを称して「クロマチック」と呼ぶことがあります。
しかし、クロマチックの楽器だからといってすべての音に半音がついているのではなく、よく使いそうな特定の音に半音が一部付加されているにすぎません。
依然としてB♭では演奏できないし、キーを半音上げてくれというのは対応できません。


このエクストラ・ブリッジ(特に低音部)が設置される位置はメーカーによっても、モデルによっても異なっており、また付加される音についてもバラバラです。
たとえば《Dusty Strings》のエクストラブリッジはすべて左側についています。
また、《Master Works》の『RCE(ラッセルクック・エディション)』モデルでは低音エクストラブリッジの位置を右か左希望の位置に指定できるオプションがあります。


アイリッシュ・チューン等の伝統曲を演奏するのにはエクストラブリッジの音追加がなくてもほとんど弾きこなせます。
演奏したい曲が現代曲中心でオクターブ低い音が欲しい、など特定の希望がある場合は各メーカーのクロマチックモデルのチューニング・チャートをよく研究しましょう。
ちなみに《Dusty Strings》の『Piano Dulcimer(ピアノ・ダルシマー)』はすべて半音が付いた楽器です。
半音上げ下げの要求に常に応えなければならないスタジオ・ミュージシャンなどごく一部の演奏者の方には検討に加えられるかもしれません。
しかしながらピアノ・ダルシマーは撥(ばち)捌きが通常のハンマーダルシマーとは全く異なりますので、ハンマーダルシマーとは違う楽器ととらえたほうがいいでしょう。


なお、親戚楽器のドイツのハックブレットは『ピアノ・ダルシマー』と同様にブリッジの位置がハンマーダルシマーとは異なります。
センターブリッジの左右で半音違いにチューニングするようになっており、基本的にすべての半音があります。

【クロマチック・ハンマーダルシマー】


3) 音色のキャラクター(特徴)

ハンマーダルシマーの音色のキャラクターはそれぞれ異なります。
メーカーによる特徴だけでなく、極端にいえば一台一台、それぞれの楽器に異なるキャラクターがあります。
音色を決める要素は無数にあり、材料の木の種類だけで決まるものではないからです。
各メーカーはそれぞれのポリシーに基づき「これがうちの音だ」というサウンドキャラクターを打ち出しています。
少なくとも試奏時には、打弦した際に音がどんな感じで残るか、「残響」が長めか短めか、というところは聞き分けて自分の好みや目的にあったハンマーダルシマーを選ぶのがおすすめです。


残響が長めのハンマーダルシマー は、どちらかというとスローな曲が美しく響き、あまり強く叩かなくても十分な音量がでます。
一方で速い曲を強く叩いて演奏すると響きすぎて音色がジャムってしまう(混ざってしまう)こともあります。
残響が短めのハンマーダルシマーの場合は速い曲を強く打弦して演奏することによりダイナミックな表現が可能となります。


音色を言葉で表現することは難しいですが、強いて言えば、


  • しっかり輪郭のある低音部は沈んで行くように減衰する
  • 中域部では明確に前に出てくる明快感がある
  • 高音部はキラキラして十分な音量がある
  • 低音から高音まで音質の連なりが良好である

これらを持ち合わせているのが良いキャラクターということになります。


もちろん重厚な低音に優先順位を置いている方も、高音のキラキラ感にハンマーダルシマーらしさを強く感じる方もいらっしゃるでしょう。
何が好きかは人それぞれですので絶対的な評価があるわけではありません。
自分の耳で判断するのが一番です。
自分で判断するのが難しければ、信頼できる経験者に聞いてみましょう。

【最高の音色の『Nick Blanton』】


page2に続く